Archive for the ‘お話し’ category

大月町の海

2月 19th, 2010

水中眼鏡で海の中を見ると、透明すぎて海の底に落ちてしまいそうだった。

海底までは5mほどある。

高いところに立ったときの足のすくむような感じ。

力をできるだけ抜いてシュノーケルから入ってくる空気を吸った。

ゴーゴーと呼吸の音が耳元で鳴る。

浮き続けるため、バタバタと足を動かし続けなければいけないが、この場所にたどり着くまでのほうが大変だった。

浅い岩場では波に洗われて体のあちこちを岩にぶつけてしまうから。

ようやく深場に出てきたが、それ以上沖に出て行く勇気はない。

何しろ、波に流されたり、サメに襲われたりする恐怖を感じる。

何かあった時に、安全なところに帰れる距離でしか行動したくない。

子供の頃に観た「ジョーズ」という映画の怖さも思い出してしまう。

岩の陰から何か大きな生き物が出てくるんじゃないかとビクビクしながら波と波の間を漂う。

呼吸が整って来たら、何か獲物を見つけるために潜る。

一番のお目当てはこの辺りではガシラと呼ばれる根魚だ。

こいつを捕まえて今日の夕御飯を豪勢にしようというのが目的だ。

透明すぎる海の中ではモリを持った人間には多くの魚は近づかない。

近づいても平然としているのは毒をもったふぐとかゴンズイの類である。

大きな岩の陰にはミノカサゴがピンク色の衣装を身にまとって漂っている。

僕は食べれない生き物や綺麗すぎる生き物には手を出さず、おいしそうな生き物を求めて何度も潜る。

サンカラその1-1972年2月6日

4月 25th, 2009

1972年2月6日に僕は生まれたらしい。1972年2月6日にそれほどの意味があるとは思えないが、この37年間、重要な書類には必ず1972年2月6日生まれと書かされる羽目になった。そして僕は毎年2月6日を迎えるたびに周りの人から祝ってもらっている。

そう考えると人はつくづく物事を単純にしたがると思う。確かに、1972年2月6日の雪の降る深夜、胎盤に包まれた僕の体がこの世に吐き出された。その瞬間から、僕は呼吸をし、泣く事をはじめ、別の生き物となった。それをみんな口をそろえて誕生日だという。

だけれども本当は僕がいつどこで誕生したのか考えれば考えるほど分からなくなってくる。受精した瞬間が僕の誕生した時だったのかも知れないし、卵子と精子だった時から僕は僕だったのかもしれない。そう考えると、僕は卵巣と精巣でバラバラに生まれていたのかもしれない。

いや、もしかしたら僕の父親が宮島で勇気を出して母親に声をかけたときが僕の誕生だったのかもしれない。

そう考えると僕はその昔どこにも存在していなかったのだ。存在するかどうかも分からない状態だった僕が、いつの間にか物質をかき集め、僕と言う形を形成し、僕と言う意志を持ち、僕と言う生き方をしている。

僕は愛と言うものの線上に存在するのかもしれないし、性欲の末の産物かもしれないし、エゴの塊かもしれない。

僕は一体何度精子になり、何度卵子になりここまでたどり着いたのだろうか。とてもじゃないけど1972年2月6日に生まれたと簡単には言い切れないほどのものが僕の体の中に入り込んでいるような気がする。