用事があり車で出かけた帰り道、妻とよちよち歩きの娘を連れて見知らぬ町の高速のインターチェンジで降りて釣りをした。知らない町の知らない海で何が釣れるか分からないまま釣り糸を垂らすというのはなんだか楽しいものである。僕はそうやって時々予定外の行動をしてしまう。が、家族もよくそれに付き合ってくれるものだ。本当にいい妻をもらったものである。
適当に車を走らせると小さな港に着いた。小さな川から水が流れ込んでいて、海水が茶色く濁っていた。午前中に降った雨で川が増水しているのだろう。大きなスズキやヒラメの類が釣れないかなとワクワクしながらえさをたらした。しばらくして釣れたのは小さなハゼだった。まあ何も釣れないよりはましかと思い釣りを続けていた。すると、胴体の無いハゼが釣れた。ハゼの頭はまだ動いていて、明らかに他の大きな魚に食べられてしまった状態だった。スズキかヒラメの類がこの下にいると確信し、何とか釣りあげてやろうとそれまで釣ったハゼをえさにして釣りをはじめた。
そうして、海面をよく見てみると、黒い大きなおたまじゃくし達が流れていた。
川の上流から押し流されて来てしまったおたまじゃくし達が海の中をスイスイと泳いでいる。しかし、その泳ぎは川の流れよりも弱く海水の濃いほうへ徐々に流されている。
これから死ぬ運命だという事を知らずに楽しそうに泳いでいるおたまじゃくし達。ぶつかってはいけない生身の者達がぶつかって傷ついてしまっている。例えて言うならばしてはいけないセックスを見てしまったような感覚がした。
海の底ではおたまじゃくし達はスズキかヒラメの類のえさになっているかもしれない。そう考えると僕はここで釣りをしていてももう釣れないんじゃないかという気がしてきた。もし、大きなスズキかヒラメの類が釣れたとしてもおたまじゃくしを食べたスズキやヒラメの類はおいしくないような気がした。
僕は釣りをやめ帰り支度をしながら、自然はいつでも生き物に無理難題を突きつけるなあとぼんやり考えていた。そして、偶然にも黒いおたまじゃくしたちの最後の泳ぐ姿を見たことが歴史上の名場面を目撃したかの様な気がした。
いつか誰かに笑い話として話そうと思って覚えていたけれども、そういうものでもないなあと思ってやめた。